
庭にキィーキィーキィーキチキチキチキチというかん高い聞き覚えのある声。
目を向けると、やはりその主は鵙である。
熟柿の落ちた枝に留まっている。
獲物を物色するかのように前を見据える目、尖った強い嘴、枝を掴む長く鋭い爪。
孤高を思わせるこの鳥を見ると、宮本武蔵を思い出す。
言わずと知れた江戸の剣豪であるが、私が思い出すのは彼が描く「枯木鳴鵙図」(重要文化財)の絵である。
やや湾曲して上方に伸びる細枝の先端にやはり鵙が留まる。
緊張感溢れる縦長の構図には無駄もなく一寸の隙もない。
その絵の特徴は精神と絵画の一体化にあり、まさに「剣画」ともともいうべく、簡素でありながら深く重い。
余物を排した鋭い筆致、対象物の本質のみを適確に描写する。
.「枯木鳴鵙図」は武人としての彼そのものと言っていいほど魂の深奥が凝縮されている。
鳴鵙とあるから絵の中の鵙もきっと高鳴きしているのだろう。
大寒の敵(かたき)とごとく対(むか)ひけり (富安風生)