
「こんにちは~」と元気な声がした。
穂波さんだとすぐわかった。
「とち餅作ったのでどうぞ」と。
「めずらしい。栃の実ははどうしたの」
「清人君が拾ってきてくれたの」
穂波さんは年上のご主人を君付けで呼ぶ。
若い頃からずっとそうらしい。
「ちょっと苦いかもしれない」
「あがっていかない?」
「まだほかにも配りに行くので、これで」
袋には薄茶の切餅が六つ入っていた。
家人が買い物から帰ってきた。
一つずつ食べた。
たしかに少し苦かった。
一月も終わる。
なぜか長く感じた。
裸木の梢はなべて白みたり高きに向かふ風になぶらる (恵)

