
「お宅にお邪魔するのは一年半ぶりになるかや」
免許証を自主返納したので、めっぽう外出が減った助手席の叔父がしみじみと言う。
それまでは年に1~2度、わが家まで運転して来てくださっていた。
「みんなに迷惑をかけちゃいかんでな」と返納はご自身の判断。
近くに住む義姉にも声を掛けて、4人での昼食会をセッティングしてあった。
「送迎しますから、ぜひ」とお誘いしたら叔父は喜んでくれた。
お一人住まいなのだが、まだ生活全般を自分でこなしている。
着る物も常に清潔感のある粧いで、スラックスには折り目がビシッとついている。
家に着くとすでに義姉はテーブルを前にしていた。
懐かしそうに二人はすぐに会話を交わす。
おもてなしというには質素な、畑で取れたものやあるものによる手作りである。
浅漬けのキクイモは叔父は初めてでおいしいと、とても気に入ったようで私もうれしくなる。
朝に皮を剥いて用意してあった栗ご飯も好評。
箸を動かしながら、時と場所を瞬間移動させてあれやこれやの話題で盛り上がる。
歌人の義姉は指導や主宰する歌会が六つあり、加えて新聞の選歌などで忙しい様子。
時間はあっという間に過ぎる。
義姉が席を立ち「また今度二人でうちにも来てな」と言うを見送る。
そして杖を持つ叔父のもう一方の手を引き車へ。
隣の市のご自宅まで40分で到着。
玄関には新作だという紙細工のサンタクロースと俳句の短冊。
まだ創作意欲は衰えていない。
「また春になり、暖かくなったらおいでください」
「ありがとう。うれしかったよ。また来年も来れるように健康でいなくちゃあな」
叔父は満91歳。
家に戻ったら、テーブルの上はすべて片付いていた。
その部屋からは冬の檀が見える。
冬日和心にも翳なかりけり (星野立子)



