
朝6時40分。
栗と木蓮の落ち葉を掃き集める。
小山になるほどの量。
火を付ける。
思いついた。
「焼芋をしよう」。
収穫した薩摩芋がまだ5本残っていたはず。
外からガラス戸を叩き声を掛ける。
「焼芋ができるように芋を準備して、畑に持ってきて」
阿吽。
年に一度はやっている。
何をどうするのかは互いに分かっているので、段取りはいい。
火が収まり燠となる。
頃よく、濡れ新聞の上をアルミ箔で包んだ芋が3本届く。
燠を広げ、芋を並べて再び被せる。
しばらく放置し、部屋に入る。
出かけたようだ。
服には煙の匂いが染みこんでいる。
お茶を飲む。
山頭火の句集を開く。
それを仮借してアレンジして作ったのが挟まっている。
・雲見れば 故郷恋し夕のひぐらし
・ふるさとは遠く 陽の沈む島影
・冬が来て 木ぎれ心切れ涙切れ
・朝の土手に拾う そのままの自分を拾う
・蟻も歩いている 吾も一足ずつ
・こおろぎよ 人の心も聞いてくれ
・あがくことさえ惨めに 虫の鳴く声さえ悲しい
・ここにこうしているわたしがふしぎ
・月の明るさに 心の表も裏も照らされる
再び外に出てホウレンソウを抜いたりしながら様子を見る。
2時間半ほどが経つ。
いいだろう。
燠を広げ芋を取り出す。
包みのアルミ箔と新聞紙を解く。
どんな感じか、一つ折ってみる。
しっかり火が通り焼き上がっている。
上でき。
駐車場を見ると車がある。
帰ってきているようだ。
火の用心。
水を掛ける。
辺りを片付け、部屋に戻る。
「やけたよ。まだ熱いから気をつけて」と渡す。
折ったのを二つの皿に分けて置き、食べる。
ねっとりとしてうまい。
願わくばコゲの香りがあればよかった。
たまにはこんなこともいい。
畑火よりにほひほのぼの藷焼けぬ (飯田蛇笏)





