
蜩の鳴く夕方、チャイムが鳴った。
ドアを開けるとお隣の松山さんだった。
お歳は90半ば。
「桃、少しだけど」とレジ袋を差し出す。
「いつもすみません」
「ハネ出しでわるいがな」
「いえ、ありがたいです」
毎年、少し傷みのあるものなど、出荷できない桃をくださるのである。
もちろん、味にはなんら問題はない。
お帰りになられてから、「ん?あれ、まてよ」。
たしか去年、孫の恵子さんが持ってきてくださった折に、「最後の桃です。もう、今年でやめることにしました」と話していたのではなかった。
ご高齢の松山さんがお一人で長年続けてきた桃栽培を終了するということだったはず。
自らの体力や後継者など、様々のことを考えての決断だったと理解していたのだが。
そういえば今年も毎朝早くに軽トラを運転して畑に行く姿がある。
背筋はぴしっと伸びて矍鑠たる松山さん、体が動くうちにはまだ引退できないということなのだろうか。
袋の中には大きな白鳳が12個入っていた。
夕飯のデザートとして早速一ついただく。
果汁たっぷりで甘い。
感謝。
アメリカ芙蓉が赤い大きな花を咲かせている。
伸びる柱頭の先は梅鉢紋のような愛らしい5つの丸。
途切れることなく次々に開き、そしてその日のうちに萎む一日花である。
さやに咲く芙蓉の朝はたふとかり (五十崎古郷)




