
国立西洋美術館で「古代からルネサンス、美の女神系譜」展を観てきた。
古来よりヨーロッパにおいてテーマとされてきたヴィーナスを巡る展覧会である。
ギリシャ・ローマから、ルネサンス、そしてバロックに至るまでの彫刻・工芸と絵画作品を集めている。
イタリアのフィレンツェを支配していた彼の名高いメディチ家が蒐集していた作品も並ぶ。
中でひときわ目を引きつけたのが、本展のメインであるティツィアーノ作「ウルビーノのヴィーナス」(1538年)だ。
愛と美の女神ヴィーナスがそのふくよかな白い裸体をベッドの上で艶めかしく横たえる。
彼女の目は見る者を誘うかのように惑わし、右手にはまさしく「愛」「美」の象徴の赤いバラを持つ。
輝く宝石がちりばめられたヘヤバンド、そしてブレスレット、さらにはイヤリングと裸身を装飾品が包む。
ベッドの上で眠りにつく「従順」を意味するイヌ、奥の長押で少女が探しているのは大人が忘れた「清純」なのか。
500年ほども前に描かれた作品であることを一瞬忘れてしまいそうになるほど、絵の中に引き込まれていく。
ルネサンスの表現技能と精神性、そのコンセプトの奥深さをあらためて感じさせる作品だった。
この絵を見てマネの《オランピア》やアングルの《オダリスクと奴隷》《 グランド・オダリスク》を思い出す。
構図、ポーズ、モチーフの配置などの類似から、それの作品はこの絵にヒントを得たのだろうと思われる。
女性の美、殊にヌードの美しさを描く後世の画家に大きな影響を与えた作品であることは違いない。
美しいばかりのその芸術性についてはいうまでもないが、加えて極めて魅惑的、官能的な絵である。
美術館を出ると上野公園では満開の桜の下、まさしくイモ洗うが如くの形容が相応しいほど花見の人々で溢れていた。