
一枚の葉書が届いた。
川崎市多摩区に住む数十年来の知人からだった。
一つ上の先輩で高校の三年間、私の家の前に部屋を借りて自炊しながら通学していた。
必然的に兄弟のように親しくなり、互いに行き来していた。
高校を卒業し、彼は川崎の会社に職を得た。
私は大学に進学したその年の夏に多摩川近くの彼のアパートを訪ねた。
その時、向ヶ丘遊園へ連れて行って貰ったことを覚えている。
それ以来会っていない。
年賀状のやりとりだけはずっと続けてきたが、それも私の都合で今年からやめている。
葉書の書き出しは「〇〇ちゃん(私の愛称)」で始まる。
一人っ子だった彼は今でも弟のような存在に思ってくれているのかもしれない。
私が毎年出品している公募展を観に国立新美術館へ出かけた報告と感想だった。
嬉しい。
電話を掛けて声を聞こう。
そしてきっとまた「〇〇ちゃん」と呼ぶのだろう。
私は高校の頃からずっと「トシヒロさん」だった。
白い一重の秋明菊も咲く。
やさしくて品のいい花だ。
おもざしの思い出だせず貴船菊 (飯名陽子)



