
今でも母からの手紙をいくつもとってある。
「そちらのほうはまだ寒いんでせうか」
「わずかですがお金いれてあります。〇〇へくる時の旅費の足に出来れば何よりに存じます」
「この所文字などわすれかけておりますので理解のほどお願い致します」
“せうか”と尋ねる年老いた母の仮名遣い。
そして少しの蓄えの中から帰省の旅費にとの母心。
その中にはなかなか逢えない息子の顔を見たいという思いが。
この手紙からしばらくして母は紫雲の国へ。
五月、サトウハチローの詩を読みつつ母を追懐する。
〈かァさんの手紙をよみました〉
かァさんの手紙をよみました
あて字ばかりの手紙です
「からだを大事になさいね」が
ずらりならんでいました
返事は出さないことにきめました
又「からだを大事にね」が
ならんでくるからです
〈五月と母〉
かがやきを/さらに青葉にそえてゆく
五月の雨はうつくしと/つぶやきたまいし母なりき
コバルトを/川の水面にときながす
五月の空はうつくしと/つぶやきたまいし母なりき
やわらかに/夜のわが家をおとずれる
五月の風はうつくしと/つぶやきたまいし母なりき
〈いつでもおかあさんはおかあさん〉
話をしていると かあさんは/五月のみどりを まきちらす
おつかいがえりの かあさんを/つばめが何度も ふりかえる/ふしぎにつばめが ふりかえる
悲しい時にも かあさんは/五月の明るい 顔をする
いっしょにあるくと かあさんの/肩にはかげろう はずんでる/ふしぎにやさしく はずんでる
ねんねの唄にも かあさんは/五月の小鳥の 声がある
夜更けの窓には かあさんを/いつでもみている 星がある/ふしぎにみている 星がある
〈母を慕う〉
母を慕う/吾が心 すなおなり
母にそむく/吾が心 いがむなり
このふたつ/いつも母の姿につながり
からみあいて この年までつづきぬ
あわれにしておかし
少しの時間、子どもに戻り母の面影と過ごす五月。
母の日の母の遺影の髪ゆたか (友田直文)


