食べ物の好き嫌いはあまりない。
だがどうしても食べられないのが二つだけある。
特に「K」はいくらお金を積まれてもダメだ。
苦手とか嫌いというレベルではない。
生理的に受け付けないのである。
料理の中にそれが入っていることを知らずに、口に入れたとしても喉が即座に反応して戻してしまう。
何らかの出来事によるトラウマがあったのかどうかはよく分からないが、小さい頃からそうだった。
この歳まで、宴会などをも含め、様々な場面でも人に知られないようにうまく避け、上手に除けてきた。
それは普段の料理に多く使われる食材で、むしろ多くの人は好みかもしれない。
嫌いな物としてその名前を出すと、ほとんどの場合「なんでこれが?」と怪訝な顔をされる。
しかしこれだけは他人が入る余地のないデリケートな領域だ。
昨日のことだった。
夢の中で誰かの家に招待されて食事をしていた。
それがなんと、喉が拒絶するはずのソレが入った料理をいかにも美味しそうに箸で次々に運ぶ自分がいたのだ。
そして半分ほどを平らげた時、目が覚めた。
あり得ないことが夢の中で起きていた。
たとえ夢であったとしてもソレを自分が食べていたという恐ろしい事実。
こんなことは初めてだ。
首まわりに少しの汗を掻いていた。
ベッドから降りると、体が重くなぜだか腰が痛かった。
「夢の中だよ!夢!夢!」と、ほんとに頬をつねってみたくなった。
でも一体全体、この時期にどうしてこんな夢を見たのだろう。
多分この先も一生私はソノ「K」を喉に通すことはない。
いかに周りの人たちが、食物繊維を含んで健康にいいだの、味が染みこんで美味しいだの、その食感がたまらないだのと言おうが。
美術館へ出かける予定をも中止にさせた強い雨も朝のうちには上がるとのこと。
ずっと降り続いていたために体中に溜まっていた鬱屈した気分からもようやく解放されそうだ。
「♪知らない町を歩いてみたい。何処か遠くへ行きたい♪~」
独活の実が黒く色づき始めている。
秋深き音生むために歩き出す (岡本眸)

