
私は鉛筆も好きで30分ほどは持つ時間がある。
永字八法ではないが、テン、ハネ、ハライなどが明快に表れ、鉛筆を走らせていてなんとも心地よい気分になる。
前後の文字の流れに合わせた筆圧と指の操りで微妙な形の違いも生まれる。
そしてその時々の自分の精神状況が文字の形になったりもするからおもしろい。
鉛筆を削るのには昔からの肥後ナイフを使っている。
時々研いでは切れ味を良くし、芯先が太くなった様子で削る。
その際、同じ位置と同じ角度で鉛筆の山に刃を入れるのがコツである。
そうすれば三角のシャ-プな形が6つ出来る。
子どもの頃、その六角形の削りの美しさを友人達と競い合ったりしたことも思い出される。
当時の男子のだれの筆入れ(たしかセルロイドであったか)にもその折りたたみのナイフが一つは入っていた気がする。
たとえば古い本の一節を削ったばかりの鉛筆で書き写す。
題は「せいとん」、本居宣長の逸話を採っている。
ところどころに旧仮名遣いなどもあるのもまた妙。
こうして時間をかけて、紙の上に1文字1文字を運ぶのも楽しいものである。
繰り難き古書の頁や夜半の冬 (吉岡桂六)


