
拾われた桜の落葉が一枚ある。
部屋に入れたのは10月21日。
時のオブジェのように置かれ、今に至る。
その間、時々手にとっては眺めた。
よく見ると、それはなぜか落葉であって落葉以上のものを感じさせたりも。
たとえば生きているような、話しかけられているような感覚とでもいおうか。
そんな不思議さの大事に取っておいた桜落葉。
「彫る?」
「彫る!」
材は厚さ4㎝の朴の板。
形を描き入れ、鋸で輪郭を大まかにカットする。
久しぶりに彫刻刀を手にする。
滑り止めにゴム手袋をはめる。
葉の起伏に合わせて板を薄く薄く彫っていく。
葉先と葉柄を折らないように気をつけながら。
ゴム天袋を取りはずし、細部に入る。
人差し指と親指で挟んで厚さを確かめつつ削る。
慎重にしたつもりだが、2箇所ほどに穴を開ける。
わずかに浮かぶ葉脈や縁取る鋸歯も。
ポスターカラーで着色。
ところどころにある染みも表す。
彫り始めてから3日。
思いの外短時間で完成。
心に温かいものが満ちる一人過ごした冬のいい時間。
削るほど紅さす板や十二月 (能村登四郎)






