
我が家には北側と東側に花梨(カリン)の木が2本あるが、おもしろいことに実のなり方が1年ごと交互に違う。今年は東側の方のなりがいい。春に咲くあの小さな淡紅色の可憐な花が、黄色く色を変えてこんなに大きな実になるのだから不思議に思う。今年もたくさんなっていて嬉しい。
その果皮は滑らかで、熟してくると油成分のようなものが表出し、極めて強い芳香を放つ。手にするととその甘い香りがしばらくは手についたまま離れない。収穫するまでもなく、自然に落ちてくるのを拾っては家の中に入れ、玄関などに置く。その香りは部屋に広がってしばらくの間いい気分にいられる。見た目には美味しそうな色と形をしたこのカリン、実はとても硬く生食できないのが難点だ。咳止めや喉にいい成分を有するので、近くの温泉などでは加工して砂糖漬や果実酒にし土産物として販売している。私は車に入れたり、時々風呂に入れて花梨風呂として楽しんだりする。
ここ長野では諏訪湖の花梨並木が有名だが、それはこの花梨でなくマルメロである。見た目は形大きさとも全ど一緒だが、マルメロの果皮には細かい毛があるので近寄ればその違いは簡単に見分けが付く。
週末には林檎に添えて故郷に送り、母にもこの香りを楽しんでもらうことにしよう。
手離してなほ掌に残りかりんの香 (麻生孝雄)