
「向日葵がすきで狂ひて死にし画家」(高浜虚子)
虚子がこの歌に詠んだその画家はゴッホだろう。きっとそうだと思う。「向日葵」が好きで「狂い死にした画家」は彼以外の誰が考えられるだろうか。女性にもてないうだつの上がらない男、美術商のあとは語学教師、続いて伝道師に、しかし教会からは解雇と、何度もの失恋と失職の末にたどり着いたのが画家だったが、それもまた絵は一枚も売れない。生活は弟テオの援助に頼るという貧困。
そして〈耳切り事件〉という悲劇的な結末をみたゴーギャンとの共同生活の破綻。《ひまわり》は彼の精神が荒々しくとげとげしく動く丁度その時期に多く描かれたモチーフだ。狂気の画家、炎の画家と呼ばれる激しい気性のゴッホ、最後は《一面の黄色い麦畑の上に黒い不吉な烏》を描き,ピストル自殺をとげる。生きているうちは不遇な生活であったが、死後彼の評価は世界中で高まる。最近では「ひまわり」をはじめ、日本でも何十億という価格で彼の作品がいくつも購入されている。
ヒマワリを「黄金日車(こがねひぐるま)」と造語したのは与謝野晶子だが、ゴッホに「黄金」は生涯無縁であった。
今日は立冬だというのに、庭では淋しげに向日葵が咲いている。「お疲れさん。もう君も休みな」とゴッホが愛した花に声かける。