
淡い紅色の山茶花がぼつぼつと咲き出した。これから冬にかけて寒さに肌身をさらけ出しながらも咲き続ける貴重な花だ。枯れ葉が舞い落ちるひんやりとした空気に包まれる中、そのさびた風姿は控えめである。絵心、歌心のある人にとって、それは写生の良いモチーフとなり、演歌の世界では艶やかで秘めた物語を演出する花となる。
近くでは生け垣にしてある家を見ることもあるが、もともとは本州西端から沖縄などの暖地に自生する植物で、様々な改良を加えられ、ここ信州や東北などの寒冷地でも栽培が可能になったようだ。材は堅く,楽器や折尺、建築、器具、彫刻などに用いられ、良質の木炭にもなるという。折尺といってもそれをすぐ思い浮かべられる人はもう多くはいないかもしれない。というより、今では巻き上げ式の便利なスケールに取って代わられ、その姿を消しつつある。私の中学校の技術室には曲尺と並んで必須のアイテムだった記憶がある。授業でそれを使って長さを測り、自分用の背もたれ椅子を作ったことも思い出され、懐かしい
一重あり、八重ありの我が家のサザンカは、これからセピア色になっていく景色の中で季節の風に身を置きながら、静かに赤や白い色を目に届けてくれることになる。
山茶花の長き盛りのはじまりぬ (富安風生)