
花の色や形というよりも、モーツアルトという名そのものに惹かれて数年前に手に入れて植えた花である。その後毎年のように鮮やかなピンクの花をたくさんつける四季咲き一重の薔薇だ。モーツァルトの生誕250周年記念にドイツで生まれたのだという。
八重や、大輪の薔薇のような豪華さはなく、色も極めてシンプルで野バラの趣すら漂わせる。
神童として注目され,若くして巨匠となり,わずか35歳で夭逝した天才モーツアルト、映画【アマデウス】でその波乱に満ちた人生は私たちの持つ彼のイメージを一変させた。シェーンブルン宮殿での女帝マリア・テレジアの前での御前演奏をはじめとし、世界各国の貴族や王の前での華々しい演奏旅行、しかし音楽家としての頂点を極めた彼の最後は借金だらけの貧困のどん底。 見知らぬ男から注文を受けたという最後の《レクイエム》だったが、健康を害したモーツァルトは病床につき,その《レクイエム》は未完のままで世を去る。共同墓地に一つの作業として淡々と淋しく埋葬されるシーンが哀れである。
そういえば私が初めて彼の交響曲第40番《ジュピター》 を聞いたのは22歳の時だったことを思い出す。演奏会用のスコアの表紙絵を書いた折りのことだった。
軽やかで風と戯れ遊ぶこの花は、何事にも縛られることなくフリーで気ままに生きた奔放なモーツアルトの名にふさわしいのかもしれない。