
葛飾応為の肉筆画『夜桜美人図』がどうしても観たいというのだ。
メナード美術館は遠い。
中央道を南下し、小牧ジャンクションで名神に入る。
小牧ICで降りて国道41号を進み、左折。
左手に小牧城を過ぎればすぐそば。
休日とあってか行路は順調、ほぼナビの設定時刻に到着。
開催されていたのは絵画・書・工芸からなる企画展『和のかたち』。
求めた応為の作は第三室、―うたを楽しむ―の章の中にある。
描かれるモチーフや主題へ想像を膨らませつつ、近寄って観て、離れて観る。
春の夜、妙齢なる女性が左手に短冊、右手に筆を持って、二つの石灯籠の間に立つ。
想が練り上がり、いよいよ筆を走らせんとするその時だろうか。
灯りが映す表情から量ればそれは想いを届ける恋の歌なのかもしれない。
灯籠の中の揺らぐ炎が作る光と影が女性の内面あるいは物語性をいっそう深める。
少し離れて、ほのかに浮かび上がる桜の花。
木々のシルエットを越して見える無数の星。
画面下に目をやれば雪見灯籠が振り袖と着物の裾を照らす。
足元には幾ばくかの散った花びら。
そのどれもにもそれぞれ付加された意味と、なくてはならない必然性を感じさせる。
バランスの取れたプロポーションとそのしなやかな姿態。
繊細に描かれる人物のディテールや背景に置かれた木々。
その江戸美人の居る場と同じ時間にいざなわれるよう。
応為は葛飾北斎の三女お栄。
父から受け継いだ画家としての才能がこの一枚だけを観ても十分伝わる。
一説によれば北斎よりも描写力に優れていたとか、北斎同様かなりの変人だったとかも伝聞される。
研ぎ澄まされた構想力と緻密な技巧と豊かな感性を隙なく感じさせる「夜桜美人図」だった。
せっかくだからと、足を伸ばして国宝犬山城の天守に登っ後、帰路に就く。
二月のいい日、満たされた鑑賞の旅。
年々に春待つこゝろこまやかに (下田美花)
