
ラジオは「冬の思い出」について、リスナーからのエピソードを取り上げていた。
私も、湯船に浸かりながら記憶に残っている強烈な冬を思い浮かべていた。
それは厳寒地で過ごした「冬」のことである。
若い頃、-20℃を超す日が連続となる土地で勤務していたことがある。
それはそれは体験した者でなければわからない世界がそこにはあった。
この時期、炊いたご飯の残りは必ず冷蔵庫に入れなければならない。
なぜなら部屋の中にそのまま置いておくとカチカチに凍ってしまうからである。
そこでは冷蔵庫が温蔵庫(保温庫)となる。
酒が凍る、コーラが凍る。
万年筆は破裂する。
もらい風呂の後のタオルが棒のように固くなる。
借家に戻る髪の毛は怒髪のようになる。
朝、職場に向かう眉毛まつ毛は白くなり、鼻毛も凍って息を吸うとむずむずする。
上げたら切りが無い程いろいろの冬マジックだった。
暖房設備や器具も十分整っていなかった一人暮らしの事である。
今では笑みが出てくる楽しい思い出である。
そういえば、その職場で私は職業人としてあるべき姿の多くのことを先輩から学んだ。
その一つひとつがこれまでの仕事の礎になっている。
感謝の土地でもある。
クリスマスローズも少しずつ開きつつある。
きさらぎが眉のあたりに来る如し (細見綾子)

