
鼻の奥まで届くような木の香りが部屋中に充満する。
ドアを開けると、隣の部屋にまで行き渡る。
それを発しているのは楠。
納得出来る作品ではない…と、公募展から帰ってからずっとそう思っていた。
毀損するか、新たに手を加えるかと作業場に運び入れたものの、何することなく時が過ぎた。
今年に入ってから何も作っていない。
「いけない…、始めなければ…」と、道具を手にする。
もとは胸像だが、特に頭部が気に入らない。
額から鋸で切り落とす。
その上に別の材を継いで、新しく造形し直すとする。
で、作品に鋸を入れた途端にあの特有の強い香りが広がったのである。
とりあえず気になる部分は取り除かれた。
原型を生かしながら想を再構築する。
今回はじっくり時間を掛ける。
それにしても楠はいい材だ。
屑払ふにもかけひきや日脚伸ぶ (安住 敦)

