王昭君(菱田春草「王昭君」と日本美術院の歴史画)~絵画の中の物語展~
- 2007/10/23(Tue) -


菱田春草の「王昭君」(重要文化財)を観てきた。明治35年、春草28歳の時の作品である。王昭君は中国の四大美女の一人にあげられる。この絵が描くのは、訳あって漢の王元帝の後宮を後にし、王昭君が匈奴の王単于(ぜんう)のもとへ向かう別離の場面である。説話の詳細は省くが、悲嘆にくれながら異国へ送られる王昭君と様々な思いを胸に彼女を見送る宮女達との心理描写が見事である。特に送り出す宮女たちを見れば、王昭君に寄せる複雑な感情が一人一人の口元に、目に、そして顔のすべてに細かに表現されている。
 
 これまでの朦朧体の欠点を克服しようと試みたこの作品が発表された時、相も変わらず春草への批評は手厳しいものであった。明らかに画面は明るくなり没線主彩の技術的な効果は濁りのない形で表れている。だが保守的な批評家達は人物描写や無線描法を酷評する。しかし果たしてどの作家が人間の感傷をここまで深く思いを込めて一枚の絵の中に描き表すことができるだろうか。

春草は時の画壇からは常に非難を浴び続けた。生活も苦しかった。それでも彼は決して周囲に迎合することをせず、自らの芸術観を曲げることはなかった。享年三十六歳、彼が自らの印章に用いた「駿走」のごとく、まさに全力で明治画界を駆け抜けた不熟の人である。その生き方に私は深い感銘を受ける。

 また久しぶりにいい作品を鑑賞することができた。美術館の外は彼の季節、「落葉」(重文)の秋である。

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