
-『冬の使者』安曇野に- こんな見出しで、一羽の白鳥が水面で遊ぶ姿が新聞を飾る。
犀川の白鳥湖には毎年2000羽を超すコハクチョウが飛来する。群れなす白鳥が一斉に飛び立ったり、湖面で楽しそうに泳ぐその姿は、見る者に時間を忘れさせる。のどかであり何とも言えぬ平和な時間がそこに流れる。河原で彼らと同じ時間と空間を共有すると心が穏やかになり癒される。
スポーツ面には、うなだれ、魂を抜かれたような少年ボクサーの会見が載る。 極めて対照的だ。
新聞を読み終わった後、庭をぐるりと歩く。ひっそりとした風情のある姿で白い藤袴が咲いている。一般的によく目にするフジバカマは淡い赤紫色をしている。『万葉集』で山上憶良が詠んだ秋の七草にあるフジバカマだ。どうやら我が家のは新しく持ち込まれた外国産の園芸種らしい。色は違うが、花の中には同じように細く伸びた髭のようのものが見える。丸みを帯びた蕾が姿を現してから、この髭が一つ二つと伸びるまでに時間がかかる。全部が咲き開くと一層、万葉人が愛した優しさをそこに漂わせる。
鈴虫や蟋蟀など、心地よい音を奏でた秋虫たちの演奏もそろそろ最終楽章に入りつつあるようだ。季節はまた新たな装いに着替えつつある。
あさっての花もすみたり藤袴 晉