
あまり花が生育するには適していない北側の日当たりの悪い場所で、けなげにも顔を覗かせているのはゼフィランサス、花茎が伸びてその頂に白く咲く姿は水仙にも似る。花の形はクロッカスのようでもあるし、サフランにも見えるが、実はあのヒガンバナ科の仲間で、やはり有毒成分のリコリンを塊茎に含むという。2週間ほど前から1輪2輪と交代しながら咲いてくれ、目を楽しませてくれている。
ゼフィランサスの上を覆うように広がっている栃の木は、その大きな葉が枝から身を解き放ち、バサッ、バサッと音をたてて地面に接地する。その落ちる様子を見ると「葉っぱのフレディ」の一節を思い出した。
『ダニエルが答えました。「まだ経験したことがないことはこわいと思うものだ。でも考えてごらん。世界は変化しつづけているんだ。変化しないものはひとつもないんだよ。春が来て夏になり秋になる。葉っぱは緑から紅葉して散る。変化するって自然なことなんだ。きみは春が夏になるときこわかったかい? 緑から紅葉するときこわくなかったろう? ぼくたちも変化しつづけているんだ。死ぬというのも変わることの一つなのだよ。」
その日の夕暮れ金色の光の中をダニエルは枝をはなれていきました。「さようなら フレディ。」ダニエルは満足そうなほほえみを浮かべゆっくり静かにいなくなりました。』
見上げると、杉の木のてっぺんでモズが高鳴きをしていた。