
ムラサキシキブの艶やかな青紫の色が目を惹く。いい色だ。密集して付いた実の重さで、スーッと伸びた枝は柳のように撓む。
そんな実に見とれていると、その鮮やかな色の中に何カ所か黄色い小さな花のようなものが見えるのに、ふと気がついた。「ん?」と顔を近づけ、眼鏡を外して目をマクロにする。それを理解するのにそう時間はかからなかった。そして実を一粒取ってみた。なるほど、それは蔕である。美しいその実を裏で、下で支えていた蔕であった。眼鏡をかけ直すと、枝の周りには数個の実が落ちていた。
美しいのはなにも表にあるものだけではない。隠れてひっそりとした美もある。
一流の役者が華々しくステージで演じるその花道の下の奈落で、回り舞台やせり出しを動かす人もいる。
この小さな蔕を見ながら、そんなことなどを思った秋の朝だった。
ムラサキシキブは20年ほど前に植えたものを庭の至る所に株分けしてある。それには訳がある。冬鳥として北の大陸から毎年我が家にやって来るジョウビタキの好物だからだ。冬をここで過ごし、春3月また中国シベリアの地へと戻る。通常は11月の初旬、文化の日の前後に飛来するが、去年は珍しく10月の比較的早い時期にやってきた。そろそろ、彼のあの鮮やかなオレンジを纏った紋付き姿に出会えるかと思うとワクワクする。
紫は古き世の色式部の実 山本鬼園