
若い頃はよく男性の頭像を制作した。
いくつか残されている作品を見ると、男の表情もいいものだとまた作ってみたくなる。
F氏の像も20代の終わりのものだ。
モデルは、彫刻の仲間が制作の拠点としていた施設の館長さんをされていた方である。
時には私どものグループ展にメッセージ文を寄せていただいたりと、大変お世話になった。
確固たる信念を持っておられ、その厳しさの中にあって吾々若者に対してはいつも温かなまなざしを向けてくださった。
休憩時間にお聞きする話には冷徹さと懐の深さが感じられた。
そして品格と教養が。
この作品ができた後、氏は県教育委員長へ招聘され、公務が多忙となり二度とお目にかかる機会は訪れなかった。
こうしてみると、その粘土を手にモデルと向き合った情景が具に浮かんできて、懐かしさが蘇る。
雪が少し積もっている朝である。
雪降れり時間の束の降るごとく (石田波郷)
