
「今日だな」、と私は確信した。
この何日かは仕事から帰ってくると同じパターンで行動していた。
鞄を置き、着替えるとすぐに月下美人の鉢を見るのだ。
数日前からクレーン現象が始まっていたので、部屋の中に入れて置いた。
2、3日前から蕾の膨らみが大きくなり、開花が近いことを悟っていた。
そして夕べのこと、蕾の先端が少し開きかけている。
時刻は9時少し前。
「きっと咲く。付き合おう」と。
花の開きに合わせて、強い香りが部屋中に広がる。
咲き切った時、針は日を越えようとしていた。
通常は夏に咲く。
しかし今年はその気配もなく、諦めていた。
9月になり、小さな蕾が5つ付いているのを観て嬉しくなった。
だが途中で3つは落ちてしまった。
昨日咲いたのはその二つのうちの一つである。
残りの一つもきっと今日あたりだろう。
夜の弱い私には辛い時間だったが、それをも忘れさせる至福の時間となった。
今朝はもう萎み、その美しい姿は変わり果てている。
頭が少し重い。
月下美人力かぎりに更けにけり (阿部みどり女)
