
「小さな幸福」 野田宇太郎
霜の降りた青い夜道から
眠った一軒の家がみえる
あかあかと灯をともして
戸をしめているが 小さな隙間から
ひとすぢの光を吹き出している
―それを闇が吸ってしまふ
蜜柑のあかるい果(み)のやうに
神はそこの家族たちにも
甘酸っぱい味をつけ給ふのだろう
雪を降らせた雲がところどころ薄くなる。
その隙間から光が伸びて雪の上の酸漿に届く。
互いに引き立て合う雪と酸漿。
この場に堀文子がいたならきっと筆を持ったことだろう。
熊谷守一ならどのように描いたか。
私はファインダーにトリミングする。
冬の日は冬ならではの立ち止まらせる表情がある。
昼過ぎのやや頼もしき冬日かな (岩田由美)
