
岡井隆は俳句の師である山田麗眺子について次のように述べている。
先生は本当の意味で大人の風格を持っておられた。
老成した人間の温かさが何時も静謐に漂い、無欲という言葉が一番ぴったりする雰囲気を持っておられた。
どんな人間でも世間の名利物欲に執する脂ぎった面が、ふっと顔を覗かすものであるが、
先生はそういうものに一切背を向け、欲望に右往左往して大事なものを見失う愚かしさを、知りつくしておられた。
私は先生の怒られた顔を一度も見たことがなかった。
そして、「清貧というものの不思議な安らぎが私を包んだ」師の生活に触れ、こう綴る。
すべてが貧しく思えるのは、内なる自我妄執の心である。
その心をひょいと除き、気がつけば仏と名づくよりない大悲の光の中に、不思議にも生かしめられていたのである。
人間の温かさと大人の風格。
欲望に右往左往して大事なものを見失う愚かしさ…。
山梔子(くちなし)の実は熟して口を開かず。
紫陽花は季に合わせて色を纏う。
山梔子の実のつややかにある師走かな (文)
