
たとえばネクタイをしたビジネススタイル。
たとえば長靴の野良姿。
たとえばハンチングの軽やかないでたち。
そして、人間として男としてたった一人の時。
日常を離れて、妄想の域に入ったり、ひたすら自分のライフワークに没頭したり。
もたげてくる原始的な本能や対極にある清冽なる感覚の領域に身を置いたり。
あるいは自然の豊かさに感謝の念を抱き、あるいは草花の健気さに、己の生かされているありがたさを認識する。
お茶を飲む器の景色を味わいつつ、そこにある存在理由と情況を思い浮かべる。
役職の覆いを取り払い、子どもの自分、訳知り顔の評論家、ただ一人の不埒な大人がいる。
または敬虔な仏の教えに傅く姿、そして欲望に突き動かされる野人の姿。
多くの自分があって、自分でも驚く自分を認識する。
いや、確かにそのすべてが自分であるのだが。
相手の考えを了とせずとも、顔でうなずかざるを得ない場面。
人の言動に苛立ち、不愉快きわまりない憤りを感じつつ、そうした感情の高揚を抑える。
人の仕事やおこないを反面教師として自分を冷静に省みる。
アクティブに走る自分の道に信号機を。
アクセルとブレーキを的確に操る心のA級ライセンスを。

