ヤツシロソウ(白花八代草) ~白い花に甦る旅~
- 2011/06/30(Thu) -
白花八代草 

八代海に浮かぶ天草を訪ねたのは20代前半、夏の暑い日のことだった。
「僕の髪が肩まで伸びて 君と同じになったら…」そんな歌が流行っていた頃だ。
私もジーパンに黒い長袖のTシャツと、歌手と同じような出で立ちだった。
宇土半島から赤い大きなアーチ橋をバスで渡った。
思い出すのは泊めていただいた家の風呂、いわゆる五右衛門風呂だった。
それを見るのも入るのも、初めての体験だった。
翌朝、歩いた道のまんなかに蛇がいて、飛び上がった。
しかし五右衛門風呂と蛇以外に何をしたのか、何を見たのかあまり記憶がない。
どこからも海が見えていた事だけは覚えている。
ただ、天草へ行きたかったのだ。
思えば無謀な旅だ。
今、庭では白花の八代草が咲いている。
その熊本八代の地周辺に自生する花だと聞く。
竜胆のようなこの白い花を見ていて、遠い日の一人旅の記憶が甦ってきた。

今年も半年が過ぎ、いよいよ折り返しとなる。

    居ながらに汗の流るゝ日なりけり  (池内たけし) 

白花八代草  

白花八代草
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マツモトセンノウ(松本仙翁) ~野の花に惹かれ~
- 2011/06/29(Wed) -
マツモトセンノウ

橙色の花は松本仙翁です。
歌舞伎役者のような名です。
どこにでもあるような5弁の花です。
ひっそりとした花です。
それがまたいいのです。
この頃そんな花たちに惹かれます。
野の趣を備えた花たち…。
楚々とした健気な花たち…。
静かな佇まいの花たち…。
年なのでしょうか。

蟻も遊びに来ています。
蟻には恰好の楽しい広場かもしれません。

六月もそろそろ終わります。

    野の花に肌も濃くなりし六月尽   (文)

まつもとせんのう
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キョウガノコ(京鹿子) ~心も淡し~
- 2011/06/28(Tue) -
きょうがのこ 


名に「京」を冠すれば、いずれにおいても「和」の情緒をイメージさせる。
あるいは古い歴史や伝統文化の香りを伴う。
京鹿子という響き、これにもそんな趣が漂う。
その文字は目にも美しい。

手持ち花火のようですね。
儚い泡のようですね。

小さな小さなほんの小さな花である。
景色に紛れてしまうほどの花である。
目を留めてくれるのを待つ花である。
思いを持つ人のみを誘う花である。
京鹿子はそんな控え目な花である。

   木漏れ日に心も淡し京鹿子  (文)

キョウガノコ

きょうがのこ

キョウガノコ 


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ツクシカラマツソウ(筑紫唐松草) ~手花火のこぼす火の色~
- 2011/06/27(Mon) -
つくしからまつそう  

歩いてさほど遠くないところに蛍の棲息地がある。
地域の人が大事に守り育ててきた貴重な遺産だ。

去年はその乱舞を家族揃って見ることができた。
小さな川に沿っておよそ数百㍍、周りにはなにもない。
谷間になっているので、生活の光からは遮断されている。
手持ちの電灯のみが頼りとなる。
現れ消える幻想の仄かな光。
飛ぶ軌跡がそこにいるすべてのものをスローモーションにしていく。

今年もまたその季節がやってきたようだ。
離れたショッピングセンター横の広場で、蛍祭が行われていてわかった。
この時期ならではの風物詩である。

庭にも夏の花がいろいろと顔を出すようになった。
筑紫唐松草は淡い線香花火のよう。
ちらちら、ちらちらと放射状に広がる。
1㎝あるかないかの小さな花火…。
前に線香花火をやったのはいつのことだろう。

   手花火のこぼす火の色水の色  (後藤夜半)


つくしからまつそう

ツクシカラマツソウ
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アジサイ(アナベル) ~まりはぼこぼこ わたしもぼこぼこ~
- 2011/06/26(Sun) -
アナベル 

  ○  八木重吉

  いいもの
  みつけた
  あった あった
  まりがあった

  ○  八木重吉

  ぼくぼくひとりでついていた
  わたしのまりを
  ひょいと
  あなたになげたくなるような
  ひょいと
  あなたがかえしてくれるように
  そんなふうになんでもいったらいいなあ


淡緑の手鞠が庭にありました。
一つ、二つ、三つ…たくさんです。
小さな花がびっしです。
だんだんに白い色の毬になっていきます。
両手で持ってみたくなります。
それはアナベルです。
紫陽花の季節です。
 
    あぢさゐの毬は一つも地につかず  (上野章子)

アナベル  

アナベル
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キャットミント(犬薄荷・Catmint) ~花摘む曇り空~
- 2011/06/25(Sat) -
キャットミント  

かわいいはなでしょう。
また、このあわむらさきのいろがいいですね。
てるてるぼうずみたいだし。
ちょんちょんとめやはなもありますね。
はーぶだから、もちろんかおりもおーけー。
きりとるのがちょっとかわいそうですね。
これはけっこうじょうぶでふえていくからだいじょうぶ。
なんというんですか。
きゃっとみんと、わめいではいぬはっかだったかなあ。
えっ、きゃっとみんとでいぬはっか?
それがどうかしたの。
だって、きゃっとはねこですよね。だったらねこはっかというようなきがするんですが…。
いわれてみでばそうか。
たとえばどっぐみんとというはなに、ねこはっかとつけているようなもんですよ。
まあ、いいじゃないか。そんなこともあるんでしょう。
おかしくないですか?なんかなっとくいかないようなきも。
ふかくかんがえない、かんがえない。
そうですね。はなはな。そこにあるはなをたのしみましょう。

そろそろはじまるじかんだ。
では、おうえんにいきましょう。

   梅雨曇り空を見上げて薄荷摘み   (文)  

キャットミント 

キャットミント
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スイカズラ(忍冬・金銀花) ~花のこぼせる言葉~
- 2011/06/24(Fri) -
スイカズラ 

いいかおりがぷーんと。
ふくんですうとあまい。
それですいかずら。
しろいはなはきいろいはなへ。
それできんのはなぎんのはな。
なかよしすがたはおしゃべりしているみたい。
のびてはつたわりからまる。
さむいひもははげんきにひろがる。
それでふゆをもたえしのぶにんどうのじ。
はなのなまえはおもしろい。

  忍冬の花のこぼせる言葉かな   (後藤比奈夫)

スイカズラ  

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バラ(薔薇) ~バラの木にバラの花咲く 何事の不思議なけれど(白秋)~
- 2011/06/23(Thu) -
薔薇 

    君が花  石川啄木

  君がくれなゐの花薔薇
  白絹かけてつつめども
  色はほのかに透きにけり
  いかにやせむとまどひつつ
  墨染衣袖かへし
  水を掩へども掩へどもいや高く
  花の香りは溢れけり

  ああ秘めがたき色なれば
  頬にいのちの血ぞ熱(ほて)り
  つつみかねたる香りゆゑ
  瞳に星の香りも浮きて
  佯はりがたき戀心
  熄(き)えぬ火盞(ほざら)の火の息に
  君が花をば染めにけれ


薔薇も季節を迎えています。
色の素敵な薔薇。
香りの素敵な薔薇。
形の素敵な薔薇。
いろいろです。

 薔薇は美しいが棘がある。
 薔薇は棘があるが美しい。
 薔薇の花咲く薔薇の木。

詩人たちの目を通して見ています。
詩人たちの心で眺めています。

  自らへ贈るくれなゐ強き薔薇 (櫂未知子)

薔薇

薔薇  

薔薇   
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カルミヤ(桃花) ~夏至の日の手足明るく~
- 2011/06/22(Wed) -
カルミヤ 

夏至ですって。
もう夏至なんですね。
今年の夏はどうなるんですかね。
どうなんでしょう。
去年のような猛暑にはなって欲しくないですね。
あれは大変でした。
東北地方は梅雨入りだそうですよ。
心配ですね。
一方、沖縄ではだいぶ前に梅雨が明けたというではありませんか。
そういえば、甲子園の地区大会がすでに始まっていると新聞に載っていました。

あそこに一面の黄金色が広がってきれいですね。
麦畑です。まさに麦秋、麦もいよいよ収穫の時期を迎えています。
毎日をただ繰り返しているだけですが、季節はこうやってちゃんと動いているんですよね。
そうですね。自然は時を確実に刻んでいきます。
よく考えれば、今日を境にこれからだんだん日が短くなっていくということになりますね。
おやおや、ちょっと淋しいことを言うじゃありませんか。
ははは、プラス思考をしなくてはいけませんね。
これからが夏本番、元気に乗り切っていきましょう。

あれはカルミヤですね。
そうです。
遅咲きなんですか。
濃い色のはすでに散りましたが、同じ花でも種類によってこうやって咲く時期がずれるんです。
いい色ですね。
一つひとつの花も可愛いですよ。
だいぶ日が照ってきました。
今日は30℃近くになるそうです。
そろそろ中に入りましょう。
来週は忙しくなりますから、早めに準備にとりかかりましょう。

   夏至の日の手足明るく目覚めけり  (岡本 眸)

かるみや  

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ヤエドクダミ(八重毒痛み) ~陰に白さある梅雨の日~
- 2011/06/21(Tue) -
八重十薬

庭の片隅に白い花があります。
八重のどくだみです。
ひっそりと咲いています。
ところどころ雨粒を乗せています。
下が一番大きく、上にいくに従ってだんだんに小さくなっていきます。
1段2段3段…とまるで塔の屋根のように積み重なっていきます。
その頂に小さな黄色の穂状が見えます。
実はそれがどくだみの本来の花なのだそうです。
白い花に見えていたのは苞なのだそうです。
むずかしい話はやめましょう。
どくだみは白い花です。
陰の花です。
隅を照らす花です。

  梅雨の日にどくだみの花の白さあり  (文)

八重ドクダミ

どくだみ 

どくだみ
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アマチャ(甘茶) ~夢違観音を思う額の花~
- 2011/06/20(Mon) -
アマチャ

早朝から地区総出の河川清掃があった。
川の中で大きく伸びた葦などを伐り取ったり、流れ着いた倒木などを片付ける。
小河川がいくつも走り、傾斜地を多く抱える当地では梅雨時に大きな被害を経験している。
この作業は、川の氾濫による災害を防ぐための昔から続く「結」の一つである。
家の横を流れる川もすっきりとなった。

ヤマアジサイの変種である甘茶が咲いている。
その名の通り、乾燥した葉に甘みを持つ。
他の紫陽花とはひと味違う野の趣がある。
素朴な梅雨の花である。

   額の花自を忘じたる日多く  (石田波郷)  

アマチャ 

アマチャ  

あまちゃ
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イボタノキ(疣取木・水蠟樹) ~梅雨の読書~
- 2011/06/19(Sun) -
イボタノキ

家にはいくつもの疣取木がある。
刈り揃えることなく、枝は自由に任せる。
白い花が総状の花序となっていっぱいに垂れ下がる。
ラッパ形の花は先が四裂し、黄色い雄蕊がのぞく。
少し甘い香りに寄せられて、昆虫がよく来る。

大きくなりすぎて、日陰が広がってきた。
そろそろ伐ろう。

木村素衛の「表現愛」を読んでいた。
難解である。若い頃の私はこれを理解できたというのか。
高村光太郎の「美について」を読んだ。
入ってくる。 若い頃から私は光太郎の文章に惹かれていた。

   書架の書の一つ逆しまはしり梅雨   (林 翔)

いぼたのき

イボタノキ   

イボタノキ  

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ハコネウツギ(箱根空木) ~遠き日の我~
- 2011/06/18(Sat) -
ハコネウツギ

白い花です。汚れなき無垢な顔でしょうか。
そばにはピンクの花です。恥じらいの初恋でしょうか。
そして赤い花もあります。智と力を蓄積した心身の熟しでしょうか。
箱根空木は色移りの花です。
人の一生の色のようです。
花言葉には「謙虚、古風、秘密、風情」とあります。
「謙虚」に生きたいものです。
「古風」な生き方も好きです。
「秘密」は必要かもしれません。
身のまわりある生きとし生けるものの「風情」を味わえる感性を持ちたいものです。

梅雨の中休みです。

  箱根空木遠き日の我を見る  (文)

ハコネウツギ 

箱根空木
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ヒペリカム(Hypericum) ~「一粒の種」~ 
- 2011/06/17(Fri) -
ヒペリカム

砂川惠理歌の「一粒の種」という歌を聞いた。
私はその歌手の名を初めて聞く。
生きるとは、愛されるとは…「一粒の種でいいから生きていたい」。
体の芯から歌い上げるしみじみとしたアルトが心に染み入る。
そして必ずやって来る、誰もが受け止めなければならない厳然たる「事実」。
一人の人間が「生と死」と向き合う時間で綴られた悲しくも優しさが伝わる「命」の歌だった。

ヒペリカムに蜂や蟻がいる。

   夏風や花の上にも蜂と蟻  (文)

ヒペリカム  

ヒペリカム 
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カキ(柿の花) ~淋しい花~
- 2011/06/16(Thu) -
柿花

今年はたくさんの柿が収穫できそうである。
富有柿と次郎柿、ともに大きな甘柿だ。
今、その花が咲いている。
形は実を思わせるように、四角をおびてやや平べったい。
花びらは反り返るように外に巻いている。
大きな4つの萼は、すでにそのまま緑色の蔕の形になっている。
淡黄色の花は艶やかな葉に隠れるようにあり、その緑色に負けて目立たない。
通る人はそこに花があることすら気づかないような、哀れみさえ感じさせる淋しい花である。

    同じ日の毎日来る柿の花   (松藤夏山)

柿の花

柿の花 
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サラサウツギ(更紗空木) ~奇麗な風の吹くことよ~
- 2011/06/15(Wed) -
更紗空木

更紗空木はふんわりとしたやわらかな八重の花。
微かな色味を残した白い花は外側の花びらだけに薄紅色の模様を残す。
美しい染め布「更紗」というその名を持つ花。
しっとりと下向きに優しく咲く。

6月半ば。
今年もそろそろ半年が過ぎるのか。
逆算して残る月日を営む。

   六月の万年筆のにほひかな  (千葉皓史)

更紗空木  

更紗空木    

更紗空木   
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ユキノシタ(雪の下・虎耳草・鴨足草) ~花と戯れるひととき~
- 2011/06/14(Tue) -
鴨足草

細い花径にぶら下がるように咲くのは雪の下。
数日前から開花をはじめ、少し散りだした。
花に顔を近づける。
上の3つは小さな尖塔形。
その中に4つの赤い斑点が、チョンチョンと。
まるで両手を広げた人のよう。
下の2つは人が脚を開いたように長く垂れ下がる。
その姿は博多人形などにある飾り雛の立ちお内裏様のようにも見える。
風が吹くたびに、小刻みに揺れてなんとも可愛い。

梅雨の晴れ間のひととき、花と戯れる。

   低く咲く雪の下にも風ある日  (星野 椿)

虎耳草  

雪の下 

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ユズ(柚子・Yuzu) ~かにかくに逢へばやすらぎ~
- 2011/06/13(Mon) -
ユズ

  止まった ウオッチ    八木重吉

  止まった 懐中時計(ウオッチ) 
  ほそい 三つの針
  白い 夜だのに
  丸いかおの  おまえのうつろ
  うごけ うごけ
  うがかぬ おまえが こわい


柚子は5弁の花。
蟻も来てその上で遊ぶ。
白い花に黒い蟻。

何事も無いかのように私の周りの時は流れていく。
不安と祈り。
届け花柚の香。

  かにかくに逢へばやすらぐ花柚の香  (野澤節子)

ユズ 

柚子

柚子 
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キバナオナガオダマキ(黄花尾長苧環) ~梅雨曇りの色静か~
- 2011/06/12(Sun) -
黄花尾長苧環 

ゆらゆらと漂い浮かぶ黄色い海月。
そう見えるのは長い距をもつ黄花尾長苧。
今年は二輪だけで現れてくれた。
ちょっと淋しいが、でもありがとう。
君たちを見ていると静穏な心持ちになる。

  梅雨曇り黄苧環や色静か  (文)

黄花尾長苧環
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カルミヤ(Kalmia・オスボレット) ~さわやかな笑顔~
- 2011/06/11(Sat) -
カルミヤ

カルミヤが満開となった。
花房からは「私を見て、私も見て、私もよ…」とでも言うかのように押し合いへし合いの顔が覗く。
ピンク色の花冠の中はさらに薄いピンクとなり、その奥には同じような形をした紫紅色の模様がある。
花びらははっきりと分裂しておらず、一つの可愛いお皿のようになっている。
色といい、形といい、見ていて何か楽しくなる花である。
花言葉には「さわやかな笑顔」「大きな希望」「大志を抱く」などなど。
たしかにあっている。

   ひとつとって口に入れたしカルミヤかな  (文)

カルミヤ 

カルミヤ  
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ムラサキツユクサ(紫露草) ~雨が欲しくなった~
- 2011/06/10(Fri) -
白紫露草 

白い紫露草。
赤紫の紫露草。
青紫の紫露草。
揃って一緒に咲いている。
一つの株にたくさんの花。
一日咲けば一日で終わって、次がまた咲き、また終わる。
次から次へ、次から次へと咲き続ける。
白い紫露草と赤紫の紫露草と青紫の紫露草が咲いている。

雨が降らない梅雨。
白い紫露草も赤紫の紫露草も青紫の紫露草も雨が欲しい。
私も雨が欲しくなった。

    梅雨晴れの花も空見る有界(うかい)かな  (文)

ムラサキツユクサ

むらさきつゆくさ

ムラサキツユクサ 
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シャクヤク(芍薬・Chinese peony) ~「自然が師だ」~
- 2011/06/09(Thu) -
芍薬 

しばらく前に彫金師「正阿弥勝義」の特集番組があった。
普段はほとんどテレビを見ない私だが、いつのまにか引き込まれるようにして見入っていた。
テレビの中で初めて聞くその名の「技」と「生き方」に圧倒されつつ、深い感銘を受けた。
彼は幕末から明治という動乱の時代に翻弄されながら、ひたすら次々と新技術に取り組み写実美を追究していく。
詳細については省くが、その中で印象に残った彼の言葉が一つある。
彼はこう書き残している。
「森羅万象是我師」と。

その言葉を目にしながら、私はロダンが荻原碌山に諭した言葉を脳裡に思い浮かべていた。
帰国を前に碌山はロダンに尋ねる。
「日本では師と仰ぐべき人がおりません。何を頼りに勉強したらいいのでしょうか」と。
ロダンは答える。
「私とか、ギリシャとかエジプトの彫刻を手本と考える必要はない」。
「君の師は君の周りにある。それは自然だ」。
「自然が師だ」。

碌山がロダンと会話を交わし帰国の途に付いた頃、勝義は京都で死去する。
彫刻家と彫金師、表現のスタイルは違う同時代の和と洋の芸術家が同じ言葉を語る。
造型美の極致は自然だという根本。

“自然に優る造型家はいない。花や木々、山や川、虫や鳥など、もろもろの自然を終生の師とする”。
私もそうした思いで生きよう。

赤い芍薬が咲いている。
勝義なら、一枚の金属板からその形を見事に再現するのだろう。

    芍薬に身の一箇所を意識せり    (鳴戸奈菜)  

芍薬  

芍薬
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ピラカンサ(Pyracantha・常盤山査子) ~六月の空~
- 2011/06/08(Wed) -
ピラカンサ 

かたまるようにして咲く5㎜ほどの小さな白い花はピラカンサ。
それはまた、季節を変えた時、緋紅色の丸い実のかたまりとなる。
ピラカンサの英名はfire thorn、直訳すれば「火の棘」。
その木の姿の描写によるのだろう。
枝には鋭い棘(thorn)、そして実は火(fir)のように燃えるような緋紅色と。
白い花が赤い実になるという、そんなところにも面白味を感じる。

衣替えに入った途端、最高気温が15度前後と寒かったりと、梅雨寒の日が続く。
いつもの年と季節感にズレを感じるのは私だけだろうか。

   六月の陽のこぼれぬ白い花   (文)

ピラカンサ  
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キショウブ(黄菖蒲・yellow flag) ~花の命は短くて~
- 2011/06/07(Tue) -
黄菖蒲

「花(はな)の命は短くて苦しきことのみ多かりき」
衆知のように林芙美子の短詩である。
その後には
「風も吹くなり雲も光るなり」と続く言葉があることを知る。

釈して次のように読み取る。
現実には思い通りにはいかない苦しいことが多い。
しかし、爽やかな風が私の頬をなぜ、雲は陽の光を包んで優しく浮かんでいるではないか。
苦しさのみに目を向けず、野にある幸せ、今そこにある幸せを感じよう。
小さな想い、小さな出来事の積み重ねを大事にしながら。

庭を縁取るのは黄菖蒲。
黄色い一日花。
花の命は短くて。

   風誘い雲の声する黄菖蒲かな  (文)

キショウブ 

キショウブ

キショウブ  
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ナツロウバイ(夏蝋梅) ~梅をとる梅雨の晴れ間かな~
- 2011/06/06(Mon) -
ナツロウバイ

あさからせいがでますね。
はれまはきちょうですから。
このじきはよていがたてにくいですからね。
そとしごとはできるときにすこしでもやっておこうとおもいまして。
いろんなやさいをだいぶうえられましたね。
じつりはんぶん、たのしみはんぶんです。
おや、ことりがおりてきましたよ。
せきれいです。よくきてあそんでくれるんです。
とりたちにとってもかつどうしやすいきせつなんでしょうか。
さっきはあおだいしょうもそこのほおずきのところをゆっくりさんぽしていましたよ。
かれらにもきこうてきにすごしやすいんですね。
そうなんでしょうね。あつくもなくさむくもなく。
おや、あのもくれんのしたにたくさんはながさいていますよ。
よくきがつきましたね。
みなれないはなですが、なんというはなですか?
「なつろうばい」です。
あのはるさきにさくろうばいといっしょですか?
そう、あのろうばいのなかまで、このなつのじきにさくんです。
はなびらのふちにうっすらとべにをさしていますね。
そのしずかないでたちがこのはなのみりょくです。
つぼみもまるくてかわいいですね。わたしごのみのやわらかなやさしいはなです。
よかったらどうぞ、ひとつきっておもちになってください。
えっ、いんですか。
いちりんざしにでもいかがですか。
ありがとうございます。
では、わたしはもうすこしうめとりをつづけます。
おしごとちゅう、おじゃましました。
また、おでかけください。

     梅雨晴間夏蝋梅の佇みぬ (文)

ナツロウバイ蕾 

ナツロウバイ 蕾

ナツロウバイ 
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エビネ(海老根・化偸草・蝦根化偸草) ~巫女舞の神楽鈴~
- 2011/06/05(Sun) -
えびね 

李の木陰で海老根が咲いている。
咲き出したのは少し前のことになる。
風が吹くと、枝が揺れて木漏れ日が届く。
数輪の花がスーッと伸びた花茎の上部にある。
その姿は巫女舞の神楽鈴(かぐらすず)を思わせる。
花は2~3㎝ほど、花びらは6枚。
1枚だけが色形、大きさとも違って、蘭特有の唇弁となっている。
5枚は赤みを帯びた褐色、唇弁は白の中に少しの薄桃色。
個々の花もそうだが、全体の形も見るからに和風である。

    時々に光と陰の海老根かな  (文)

えびね  

えびね   

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シラン(紫蘭) ~かけりゆく心~ 
- 2011/06/04(Sat) -
紫蘭

  心よ   八木重吉

  ほのかにも いろづいてゆく こころ
  われながら あいらしいこころよ
  ながれ ゆくものよ
  さあ それならば ゆくがいい
  「役立たぬもの」にあくがれて はてしなく
  まぼろしを 追うて かぎりなく
  こころときめいて かけりゆけよ

  心    文

  すなおでありましょう
  かんじていましょう
  そっとさりげなくうごきましょう
  しずかにこころくばりしましょう
  ときどきいかれることがあたまをもたげます
  ときどきくびをかしげることがおきてきます
  あなたがおもうことはひとももとめているのかもしれません
  あなたがしたいことはひともしたいとおもっているのでしょう
  あわせることはむずかしいことです
  あわせることもたいせつなことです
  そっとつつんでささえましょう
  しずかにてをさしのべましょう
  じぶんをしっかりもっていれば
  じぶんのこころにぶれなければ

色優しい紫蘭です。
縦襞がいいですね。


    吾知るや雑草園に紫蘭あり   (高浜虚子)

紫蘭 

紫蘭  
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クレマチス(Clematisド・ドクターラッペル) ~六月の樹陰~
- 2011/06/03(Fri) -
クラマチス ドクターラッペル

   ○   八木重吉

  尊いもの
  それは真っ直ぐにみつめた姿だ

  人を打つもの
  それは巧みな智慧ではない
  素直な信ばかりだ

  本当にうつくしい姿
  それはひとすじに流れたものだ
  川のようなものだ


重吉さん、赤いクレマチスが咲いています。
昨日までの雨が少し残っています。
あなたの短い、さらっとした言葉には真実があります。
美しく純粋な心を持つあなただからこそ紡がれる言葉なのでしょう。
あなたは30歳で亡くなったんです。
30歳です。
30歳のあなたからたくさんのことを学んでいます。
クレマチスの花言葉は「美しい高潔」「心の美」とあります。
重吉さん、あなたのような花です。

   六月や樹陰に佇(た)てば肌しめる  (大竹孤悠) 

クレマチス・ドクターラッペル
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ジャーマンアイリス(German iris) ~梅雨寒の中で~
- 2011/06/02(Thu) -
じゃーまんあいりす

      雨     八木重吉

   雨は土をうるおしてゆく
   雨というもののそばにしゃがんで
   雨のすることをみていたい



      雨     文

  雨を見ていたら雨が絵になった。
  雨を見ていたら雨が歌になった。
  雨を見ていたら雨が物語を運んでくれた。
  雨が私を見ている。
  雨が微笑んでいる。
  雨がさそっている。
  雨が私に問いかける。

  花も雨化粧。
  街も雨塗り。

  私は雨の生まれるところを見てみたい。


     アイリスを眺むる梅雨の寒さかな (文)

ジャーマンアイリス   

ジャーマンアイリス     

じゃーまんあいりす  

じゃーまんあいりす 

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チャイブ(Chives・西洋淺葱) ~一つ脱いで後ろに負ひぬ~
- 2011/06/01(Wed) -
ちゃいぶ

ろくがつですね。
いやあ、ろくがつですね。
ごがつというひびきとは、そのことばからうけるいめーじががらりとちがいます。
もえいずるとかはなさきほこるとかかぜかおるとか、さわやかさかんがごがつにはありますからね。
あめのおおいきせつですが、それはそれでまたろくがつならではのふぜいというものです。
そういえばあなたはむかしからあめがすきだといっていましたね。
そうなんです。よくわからないんですがこうこうせいのころからすきでした。
なにかものがたりとか、しとかはいくやうたのなかにおもいでがあるんではないんですか。
そのきっかけはよくおぼえていないんです。
きっとこころにのこるふかいできごとがあったんでしょう。
あめはさまざまなひょうじょうをみせてくれます。
あめをあらわしたうつくしいことばもかずおおくありますよ。
わたしもいぜんそれらをじしょでしらべてすべてかきだしたことがあります。
あなたらしい。
むかしのひとびとのせんさいなかんせいで、じょうちょゆかたかにそしてからふるにあらわされています。
えにもよくえがかれているじゃないですか。
あめのえというと、ひろしげのごじゅうさんつぎの「しょうの」などがおもいだされます。
ああ、かさをさしてさかみちをいそいでかけていくようすをえがいたあれですね。
じぶんがそのばにいるようなりんじょうかんがあります。
みよしえいじの「あめ」といううたもありましたがしっていますか。
ふるいですね。「あめにぬれながらたたずむひとがいる…」といううたでしょう。
ろくがつついたち、きょうからころもがえです。
そういえばあなたはねくたいをしていませんね。
このごじせいでうからすーつとねくたいをやめ、くーるびずでいきます。
いいことですね。
でも、まだしょうじきはださむいです。
だんだんにでしょう。
ほら、みちゆくせいとさんたちもしろいっしょくですよ。
わたしたちもきもちをきりかえていきましょうか。


毎年、この時期にチャイブは咲く。

  一つ脱いで後ろに負ひぬ更衣   (松尾芭蕉)

チャイブ 


チャイブ   


チャイブ

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