
まだ暗い朝に、落ち葉を掃く。ぐるりとひとまわり掃き終える頃には辺りは明るくなってくる。
空には白い月。愛を語る夜の月とは違って、少しはにかんだ顔にも見える。
ツッツッツッと聞き慣れた声。ジョウビタキだ。今年も来てくれた。北の異国より訪れる長年の友だ。
箒を進める。こうして動くときまっていい香りをする一角がある。それは桂の木。
黄葉した心形の葉が甘い香りを発している。香ノ木と呼ばれるゆえんだ。木の周りには蝉の穴がいくつもある。
さらに、柿の下を掃く。凌霄花もだいぶ落ちてきた。枯色の紫陽花も風情がある。
葉が舞い落ちる中、白い小さなスイートアリッサムがあちこちに咲いている。
この花が我が家に姿を見せるようになってからもう10年近くなるような気がする。
見た目はとても可愛い花だが、春から咲き始めて夏を越し、葉が色づく季節までこうして咲き続ける強い花でもある。
周りの地には色と香りを失った金木犀の花が散りばめられ、そして上からは栃の葉が覆い被さる。
わずか数ミリの四弁の花にもハナグモがその甘い香りに誘われて頭を突っ込む。彼が狙う獲物は何だろう。
この花の花言葉は「奥ゆかしい美しさ」。…誰をイメージしよう。
「奥ゆかしさ」という言葉は現代日本女性の修飾語として位置づくのだろうかと、ふと考えたりする。
庭掃けば葉色も深し秋の声 (文)
