
フェルメールを観てきた。
『光の天才画家とデルフトの巨匠たち』というサブタイトルを持つ。
世界で三十数点しかない彼の作品の中から一挙7点の展示である。
中でも彼が残したたった2点の風景画のうちの一つ《小径》は興味を惹いた。
また、彼のすべての作品の実物大の作品パネルが展示されていたのも、鑑賞者にとってはありがたい。
今回の展示作品の中で、一番印象深く目に付いたのは《手紙を書く婦人と召使い》だ。
これも多くの作品がそうであるように、光が左上方から窓を経て部屋に差し込む。
婦人はその手紙を誰に向けて書いているのだろう。その表情からは「愛のメッセージ」を感じさせる。
召使いは少し距離を置いてその中味を目にしないように心配りをし、視線を窓の外へ向ける。
きっと主人が認めたその大事な思いをこれから相手に届ける仕事をするのだろう。
二人の女性の表情はそれぞれの立場を美しい物語にしている。
婦人は頭巾を被り耳にピアスをして、首を少し斜めにかしげながら文を綴る。
ペンを持つ右手、紙を押さえる左手、その仕草がまた自然で美しい。
書き直したのだろうか、床に便箋が丸めて捨てられている。思いをもっと深く強く伝えたかったのかもしれない。
光が作り出す静謐な陰影表現が部屋全体に広がる。時間も静かに流れる。
この絵は2度も盗難に遭うという痛々しい歴史を持つ。
以前に観た《真珠の耳飾りの少女》そして《牛乳を注ぐ女》とはひと味違う充実感がある。
ただ、彼が生涯愛し手放さなかったという、《絵画芸術》の出品が突如キャンセルされたというのは残念である。
外へ出ると上野はそれぞれの秋を楽しむ家族連れや恋人達で賑わっていた。
女とは何か手に持ち秋日傘 (中西ひさえ)