
東山魁夷の「自然との対話展」が開催されている清春白樺美術館に行ってきた。リトグラフによる展観なので、やはり原画を知るものにとっては、その内容には物足りなさを感じる。ただ、晩年の彼が身魂注いだ「唐招提寺襖絵」による小品リトグラフだけは壮大な本画をイメージさせるものがあり、唯一足を止まらせるものがあった。それより、別室でルオーの作品が一切のバリア無しで見ることができたのが嬉しい。あのステンドグラスを思わせる太い線の黒い縁取りに描かれたキリスト像など、キャンバスの中に彼の息づかいが感じられる。これらはいつ見てもいい。それにしてもこのコレクションは凄い。
人はまばらである。外へ出ると広々とした芝生の庭の大きな桜が並ぶ片隅に、藤森照信氏の設計による茶室「徹」がある。一本の木に支えられた地上約四メートルの上にある何とも奇妙な茶室だ。この茶室ができあがるまでの過程が以前NHKで放映されていて一体どんなものか興味を持っていた。藤森氏らしい発想の茶室といえばそうだが、下から眺めていると一つの野外彫刻的な造形としての存在感もある。銅板で葺かれた屋根が周りの景観にとけ込み違和感なくマッチしている。なかなかいい。
また、隣のギャラリーで富本憲吉やバーナード・リーチの器を目にすることができたのは幸いであった。この展覧、柳宗民、浜田庄司、河合寛次郎、金城次郎…等々一連の日本民芸運動の先駆者達の輪の一部分にふれることができたことは嬉しい。私の飾り棚には金城次郎の「魚」図器2客がある。
昼食は「翁」でとった。これが蕎麦だという職人の技が味に出ている。さすがにうまい。札幌や京都ナンバーの車があった。外には多くの人が待っている。街から遠く離れた山あいにあるこの店を全国から訪ねてくるのが分かる気がする。
その後、車を移し、「平山郁夫シルクロード美術館」を訪ねた。作品には彼のライフワークとしてきたシルクロードのテーマが全展を通して一貫しており、その点については申し分ない。ただ、彼の作品を見たい者にとってはその数の少なさは物足りない。新しい美術館だけにいろいろなソフトの面でまだ整備されていない感を受ける。
秋の一日、心地よいアートシーンに身を置き、予定より早く家路につく。庭を一回りするとそこには、紫陽花が本花を咲かせていた。装飾花はない。花にはクロハナムグリ(黒花潜)が体を沈めている。今頃になってなぜ咲くのだろう。