
昨日、約束の時刻に義姉のお宅へお邪魔した。
部屋に入るとテーブルの上には冷えた麦茶と水羊羹、そして梨、収穫のミニトマトと漬物が並ぶ。
「九月に入っても厳しい残暑が続くねえ。さあさあ、どうぞ」と促される。
それらを口に通しながら話を聞く。
義姉は地域で歌会の指導や新聞の選評も行っている歌人である。
だが、私の知る昔の義姉は水彩画や油絵も描き、公募展にも出品していた。
高校の頃は美術班に属していて芸大を目指していたこともあったと聞く。
(ちなみに当時同じ班にいた友人は芸大に入り、その後美大教授などを歴任した著名な日本画家である)
それで部屋や廊下などには描いた作品が掲げられている。
義姉はこれまでに二冊の歌集を出している。
いただいたそれらは私の書架にも並ぶ。
優しくて知的でかつ冷静な義姉だが、その歌集の中には激しい感情的な歌がいくつもあるのには驚く。
いろいろに話が進み、少したってから、一冊の真新しい本をテーブルの上に置いた。
先だってエッセイ集を出したのだと言ってプレゼントされた。
最初のページに謹呈の短冊が挟まれていた。
パラパラ捲ると収められた49の文章にはそれぞれに数首の歌が添えられている。
「家に帰ってからゆっくり読みますね」と閉じる。
娘さんの手による装幀は紅白の椿と山並みと空に浮かぶ折り鶴が描かれる。
(家に帰って本を開いて分かったことだが、それらのモチーフはすべてエッセイのタイトル名や文章の主題にあった)
話は彫刻や能面などへと広がり、心深まるいい時間になる。
時は一時間半ほど過ぎる頃、おいとまする。
戻って先日から製作していた公募展への搬入用木箱作りの続きをし、ほぼ完成する。
早めの風呂に入った後、早速いただいた本を読んでいたら、チャイムが鳴る。
立っていたのは帽子に野良着姿の義姉。
「さっきはありがとう。いつもと同じ野菜だけど食べて」
「今、本読んでいました」
「恥ずかしい。また感想を聞かせて」
袋の中にはたくさんの胡瓜と茄子とトマトとピーマンと金時草。
一昨日の朝のガーデンにはミズリーマツヨイグサが一輪。
六月初旬と間をおいて八月初旬にも咲いて、三度目の開花。
それは一日花。
庭隅の鷹の羽芒に穂の二つ三つ伸びて静かに秋を告げている (居山聞涛)



