
それは先日のこと。
友人のK君は小諸の自宅を出て岡谷から高速に乗ってやってくる。
待ち合わせ場所は伊那インターを出てすぐのスーパーの駐車場。
10:30、ほぼ予定通りの到着。
「中国現代芸術家の作品展」が行われているギャラリーはそこからおよそ10分弱と思われる。
私が先導する形で向かうことに。
アクセス道路を東に向かって下り、天竜川を渡る。
竜東線に突き当たり、そこを左折し北に向かう。
場所は大きな家具店の裏手付近だと言われていた。
その近くに車を止めてオーナーのTさんに電話を入れる。
「これから道に出ます」と。
すぐそばの家から笑顔の男性が出てきた。
「遠くからようこそおいでくださいました」
初対面である。
まずはその場で互いに自己紹介。
来日して18年経つという中国河南省出身の彼は、流暢な日本語を話す。
日本人の奥様と結婚され、この地に住宅を購入し、そしてその敷地内に新たにギャラリーを設置。
案内されてギャラリーに入る。
和風の室内は2間に仕切られている。
壁、床、畳、間仕切りの漆喰などのギャラリーの内装のすべてを一人で手がけたのだという。
展示スペースは20畳ほどとさほど広くないので作品数も少ない。
でも一つ一つに味がある。
銅板に文字を刻した作品や抽象的な銅版画がメインの展示。
作品の配置や見せ方、照明などに細やかな工夫がなされている。
すべてが作家の作というのではなく、Tさんご自身の手によるものもコラボとしていくつか。
その一つ、縦長の古い金属の器に黒いぬばたまが挿してあったのにもセンスを感じる。
それらの素材や表現の意図などを説明してくださる。
全体を見終わったところで「お茶を淹れますからどうぞお座りください」とテーブルに促される。
小さな円卓には中国式の茶道具一式が用意されていた。
「これは中国の岩茶(がんちゃ)です。独特の香りがしますので嗅いでください。」
少し黒っぽい茶葉を鼻に寄せるとなるほどたしかにこれまで知っている茶の香りとは違う。
展示作家のことや中国現代アートの話をしながらも彼の手は茶の準備の為に常に動いている。
何度も湯呑みや急須に入れては空けてを繰り返す。
小さな器に淹れて「さあ、どうぞ」と差し出しされたのは5分ほど経ってからだった。
岩茶を一番美味しく飲むにはどうやらこうした手順と時間が必要らしい。
一杯目を飲み干すと、「器に残る香りを嗅いでください」と。
そして2杯目、3杯目も「それぞれの段階での香りと味を楽しんでください」と。
丁寧な言葉遣いと穏やかな話ぶりに誠実な人柄がうかがえる。
そして12時近く、それぞれ連絡先を交わす。
「ではこれで失礼します。ありがとうございました」
駐車場を出る時、腰を折って見送ってくださる。
どこまでも丁寧な方である。
私達はインター近くまで戻り、それぞれ蕎麦とソースカツ丼を食べた。
現代美術との新たな出会いと楽しいひとときを過ごし伊那の蕎麦の美味しい師走 (上武旋転子)






