
春暖という言葉がふさわしい天気の中、あれこれの外の作業で汗をかく。
東京の桜も開花宣言だとか。
町の温泉施設へ行く。
一人で入るのは初めてのことだ。
家人達は都会へ出かけている。
夕方の早い時間だったので、客は多くなかった。
脱衣所で白髪の高齢の方と30代の頃のお孫さんとおぼしき方と一緒になる。
がっしりとした彼は、祖父(たぶん)の手伝いをし、そして手を添えて中に入っていく。
最初に大きな源泉湯。
聞くとはなしに耳に入る二人の小さな声の会話。
「この間来たときは、ジェットバスに入らなかったから今日は入っていこうね」
ここの浴場にはいろいろな種類の湯が用意されている。
そして、洗い場では自分より先に少し丸くなった背中を流している。
湯のどれに入るか、希望を聞きながら寄り添って順番に入る。
私とほぼ同じタイミングで次に移っていく。
その度に彼は祖父に話しかけながら。
上がりも一緒だった。
そして同様に優しい声がけ。
「また来ようね」
やはり大事に手を添え、その足の運びに合わせながらゆっくりて出ていった。
体も心も温まる気持ちのいお湯だった。
緑色のクリスマスローズも咲く。
葉色に同化し、離れてみると花の存在がよくわからない。
でもまたそれがいい。
暖かきことが決意をうながせる (稲畑汀子)


